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日だまりに春

 三鷹の禅林寺は森鷗外や今年生誕100年を迎えている太宰治の墓があることでよく知られていますが、きょうは別な禅林寺、太宰が入水自殺した玉川上水を20キロばかり遡り、多摩川から玉川上水への取水堰が設置されている羽村市の禅林寺を訊ねてみました。JR青梅線羽村駅から徒歩10分ほど、取水堰に向かう道沿いです。わたくしは隣町なので人力二輪車であります。こちらの禅林寺には太宰より四半世紀早く生まれ、『大菩薩峠』という未完の大長編小説を残して昭和19年に亡くなった中里介山の墓があります。
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 禅林寺は臨済宗建長寺派に属し、文禄2年の創建ということでありますから、ちょうど秀吉が伏見城という壮麗な城を建築中の時代でありますね。その秀吉ゆかりの観音像があるそうですが、いずれ機会があったら拝見させてもらうことにしましょう。それに雨乞い竜と呼ばれている天井画もあわせて。
 中里介山の墓は段丘の一段上に広がる墓地にあります。自然石が周囲に積まれた真ん中に梵字が刻まれてあるほかになにも記されていない石塔がひとつだけ立つ簡素というより簡潔な墓で、手前に中里介山居士之墓という墓碑がなかったら、誰の墓か分からないくらいです。といっても羽村市教育委員会の案内板もありますから間違いようはありませんが。高さ6、7メートルほどの1本のヤマモミジが墓を見守るように枝を広げています。
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『大菩薩峠』は日本大衆小説の嚆矢ともされる幕末を舞台とした一大巨編で、大正2年に都新聞に連載を始め、大阪毎日、東京日日、国民、読売など掲載誌を移しながら断続的に昭和16年までおよそ30年にわたって書き継がれ41巻にも及ぶが、作者の死で未完に終っているという、「常軌を逸したとんでもない小説」であるらしいのでありますね。あるらしいというのは、主人公が机竜之介というニヒリストの剣士で、大菩薩峠で縁もない巡礼の老人をわけもなく斬り殺す場面から始まり、あまたの名刀で惨殺を繰り返していく荒唐無稽の話であるくらいのことは知っていても、じつはほんの一部分しか読んだことがないからであります。いつかはまとめて読み通してやろうという意欲のもとにちくま文庫版20巻を書棚にそろえてあるのでありますが、ほんのわずか拾い読みをしただけで放り出してあるのです。なぜかというと、読み通すにはかなりの忍耐を必要とするだろうことが、つまみ食いだけで即座に判明したからでありますね。これまで文学好きの友人始め、読み終えたという人にあったことがありません。とはいっても隣町生まれの作家でありますから、近い将来にはぜひともと願っております。いまでは著作権が切れてインターネット経由で全巻読むことも出来ますから(あおぞら文庫)、興味のある方は挑戦してみてください。羽村取水堰のある多摩川対岸の羽村郷土博物館でも自筆原稿や日記、遺品などを見ることができますが、その紹介はまた改めてすることにしましょう。
 さてきょうの散歩の途上で見かけた日だまりに春の写真をいくつかご覧ください。今年は例年より花が早いですね。禅林寺とは別な寺の山門で見かけた風鐸から、三好達治の詩がにわかに思い起こされました。詩の季節はもうすこし遅い、たぶん桜の春で、大和の寺でありますが、一番下の写真にその詩を組み込んでおきました。詩集『測量船』中の一編です。
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アケボノアセビ
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フクジュソウ
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ナノハナ

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by fuefukin | 2009-02-21 22:06

日常の延長に旅があるなら、旅の延長は日常にある。ゆえに今日という日は常に旅の第一歩である。書籍編集者@福生が贈る国内外の旅と日常、世界の音楽と楽器のあれやこれや。


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