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黄昏れる

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「序夜と3日間のための舞台祝典劇」と題された壮大な歌劇(作曲したワーグナー本人は歌劇 opera ではなく楽劇 Musikdrama と称した)は北欧神話に想を起こしたものの、完成までに26年、その間に構想は膨らみ続けてけっきょく、
 序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold)
 第1日 『ワルキューレ』(Die Walküre)
 第2日 『ジークフリート』(Siegfried)
 第3日 『神々の黄昏』(Götterdämmerung)
 という四部作となって、全体を『ニーベルングの指環』(Ring des Nibelungen)とする、通常上演に4日間、あわせて15時間余を要するオペラ史上最大の作品となったのはみなさんご存知の通りでありますね。
 パトロンだったバイエルン王ルートヴィヒ二世の矢のような催促に、仕方なく『ラインの黄金』と『ワルキューレ』2作の先行上演をしたのが1869年と1870年、バイロイトに建設したワーグナーの楽劇上演専用の祝祭劇場が完成して、本来の連続上演が成ったのは1876年8月のことでありました。この初演のときにはルートヴィヒ二世のほかにドイツ皇帝ヴィルヘルム一世、ブラジル皇帝ペドロ二世が顔を並べ、リスト、ブルックナー、チャイコフスキーらの音楽家も招かれて聴衆席に会したということであります。ちなみに同じ年の日本では、韓国併合のさきがけともなった江華島条約が結ばれ、札幌に農学校が開かれてクラーク博士が来日、高橋お伝が世間を騒がせたりした年。バルカンではセルビアとモンテネグロがオスマン帝国に宣戦布告してきな臭い臭いがヨーロッパにも漂い始め、やがて戦争と革命の20世紀につながっていく年でもありました。
 今年もつい先日バイロイト音楽祭が行われたばかりでしたね。わたくしはもちろんバイロイトに行ったこともなく、出回っている映像などで通して聴いたこともありません。音楽と舞台が壮大であるのにあわせて、聴き手もなみなみならぬ決意と熱意を持たなければ聴き通すことができないのではないかと思われるからですね。
 もう十数年前、滞在していたブダペストのホテルがたまたまオペラ座の隣だったので、売れ残っていたボックス席のチケットを奮発して手に入れ、連夜『ドン・ジョバンニ』と『タンホイザー』の聴衆に連なったのだが、情けないことに半分くらいは眠気と戦っていたような記憶しか残っていない。幕間のロービーで見かけた、胸と背中が大きく開いた華やかなドレス姿の上流階級とおぼしきハンガリー美人の印象のほうが大きい。東欧の民主革命からまだ6、7年くらいしか経っていなかった頃だが、西ヨーロッパとさほどの違いも感じられなかった社交会的なオペラ観劇の雰囲気のほうが記憶に大きく残っている。東欧とはいえハプスブルクの主要な都市でもあった町だから当然といえば当然だったか。
 さて昨夕刻の神々の黄昏を彷彿させるような日没ドラマを書こうと思っているうちに横道にそれました。写真は午後5時40分ころに撮影。クレジットネームを入れた h の上が多摩の盟峰大岳山。20分ほどあかず眺めておりました。
by fuefukin | 2010-08-27 10:44 | イメージ写真

日常の延長に旅があるなら、旅の延長は日常にある。ゆえに今日という日は常に旅の第一歩である。書籍編集者@福生が贈る国内外の旅と日常、世界の音楽と楽器のあれやこれや。


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