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月の兎

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 昨晩の中秋の月は西多摩あたりでは雲に隠れ、幾度か窓を開けて見上げたうちに一度、さっと雲が流れた隙間に見えたきりで薄を月に添えるヒマもありませんでしたね。そこで本当の満月の今夜の月を改めて撮影してみました。歴の上の名月とは日にちがずれることも間々あるようです。

 昨日午後は、この7月に急逝した東京良寛会会長をつとめておられた松本市壽さんを偲ぶ会があって、神田錦町まで出かけて参りました。松本さんとはもう20年ほど前に小さな出版社で一時期机を並べて仕事をしていた、いわば同僚の間柄でもありましたが、それまで雑誌編集に携わってきたわたくしは、さほど長くはなかったその期間に、書籍編集者としての編集技術というより、編集者としての気構え心構えというもの、あるいはそうした仕事の根底に据えるべき性根というものを教わった気がしていて、ひそやかにわたくし自身の編集という仕事の師と思い定めていた部分もあったのでした。
 出版社勤めを終えてからは良寛研究に打ち込み、良寛書の執筆、大学やカルチャーセンターなどでの講演講義に活躍されていたのを折々の便りで知りつつ、親しく訪ねていろいろ話をうかがおうと思いながらいるうちの突然の訃報でした。良寛生誕250年の昨年を期して、新しい『定本良寛全集』3巻本の編集に全力を注いだのも体調に関係していたのでしょうか。その編集作業の最終段階あたりで電話で話したのが、今にして思えば最後の会話となったのでした。
 松本さんをガイド役として昨年放送されたテレビ新潟制作の「清貧のひと良寛~小沢昭一的こころで良寛に学ぶ~」という番組のビデオの一部を会場で拝見したが、この番組に出演された小沢昭一さんは、良寛の父・伊南の実家である与板の新木家ゆかりのひとで、同じ会場で哀悼の挨拶もしてくれたのでした。小沢さんの祖母が新木家から出たひとだったことは、わたくしもかつて松本さんから直接きいていたことだったが、そういうつながりが後にテレビ番組につながり、さらにこうして年長の小沢さんに追悼の言葉をもらうようになるとは、松本さん自身も思いもよらないことだったに違いないと考えると、人間の運命の不思議を思わないではいられません。
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 松本さんが亡くなる前、錦心流薩摩琵琶の古澤さんという方に良寛の歌を語りでやれないかという話というか依頼をしていたことを初めて知った。その途上で松本さんは逝ってしまわれたのだが、古澤さんがまだ仕上げ途中の語りを琵琶を弾きながら披露してくれた。
 今の世までも 語りつぎ
 月の兎と いうことは これがもとにて ありけると
 聞く吾(われ)さへも 白袴(しろたえ)の
 衣の袖は とほりて濡れぬ
 と結ばれる良寛作の長歌「月の兎」。兎が自分は何もできなくて、みずから火の中に飛びこんでその身を焼いて仏に献じようとしたという、仏教寓意から想をとった長歌であります。
 あいにくの曇天の中秋だったが、松本さんはきっと今夜のような満ちた月を見ていたと思いたい。


 それにしてもこのごろは人をおくるばかりが多くなってきました。
by fuefukin | 2009-10-04 22:02

日常の延長に旅があるなら、旅の延長は日常にある。ゆえに今日という日は常に旅の第一歩である。書籍編集者@福生が贈る国内外の旅と日常、世界の音楽と楽器のあれやこれや。


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