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七夕、オリンピック、コーカサス

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 暦ではもう秋でありますが、暑くて暑くて窓を閉められないので、地元の七夕祭りの民謡パレードがわが家の前の公園から次々と出発するのにあわせて、商店街のスピーカーからアナウンスや民謡音頭がさわがしく流れてくるのを防げずちょっと食傷気味のところへ、さらに蒸し暑い夜になると北京でオリンピックが始まりました。開会式をちゃんと見るでもなく横目で眺めておりましたが、巻物絵巻風の演出、活字を模したショーアップ、シルクロードが伝播した唐草文様を模した聖火台など、現代文明の始祖たるわが中国を誇るといった過剰気味の中華思想が感じられなくもありませんでしたが、ぜんたいとしては映画監督の演出らしく派手な京劇をさらに上回る華麗壮大なスペクタクルを見るような感じでありました。テロも起こらずとりあえず中国100年の夢は無事開幕というところでしょうか。

 鳥の巣のまわりでずいぶん花火もあがっていましたが、以前、同僚だった中国人と夏の花火大会の話になったとき、「(4尺玉のような大きな)花火は中国にもある?」と尋ねたところ、かっこの中の会話のつながりがうまく伝わらなかったようで、「もちろんありますよ。みんな(花火もなにもかも、日本のものはなにもかも)中国からやってきました」と返ってきて(返事のかっこ内はわたくしの補足)ちょっと鼻白んだ記憶さえよみがえってきましたね。それはさておき、機械仕掛けでコンピュータ制御されているかにみえた活字1本1本の文字が描かれた上のふたが開いて人が手を振って現れたときはちょっとびっくりさせられました。
 テレビをつけたままいつのまにやら眠ってしまって最後まで見ることはなかったのですが、続きを翌日のニュースなどで見ていると、選手たちの入場行進で日本選手団の番になると福田首相がアップの映像になったりしたあと、ロシア選手団のときにプーチンさんがアップになってアナウンサーが「プーチン大統領です」と紹介したあと言い直しも訂正もしなかったのが面白かったというより、まだまだロシアはプーチンの国という感覚が誰にもあるのかと気になりました。

 そのロシアとグルジアがこのオリンピック開会式の最中に、全面戦争も予想される戦闘状態に突入したというニュースが飛び込んできました。コーカサス山脈をはさんで北はロシア連邦を構成する北オセチア共和国、南はグルジアの中央部にぶら下がるようなかっこうでグルジアから分離独立をうたう南オセチア自治州となっていて、今回、南オセチアに駐留するロシアの平和維持軍とグルジア軍が激しい戦闘状態となり、グルジア全土に戒厳令が敷かれるという具合であります。プーチン前大統領が強権で押さえ込んだチェチェン・イングーシはすぐ東隣です。モスクワの留守を狙って起きたかのような軍事衝突なのでしょうかね。

 決闘のため若くして死んだロシアの作家レールモントフは小説『現代の英雄』の冒頭で、コーカサスを駅馬車で旅する小説の語り手に次のように描写させています。
「オセット人の馭者は、夜になるまでにコイシャウールスカヤ山に登つてしまはうとて、懸命に馬を逐い、咽喉一ぱいに声を張り上げてうたつた。この谿谷は素晴らしいところである! どちらを見ても、近づくこともできないような山々。青々とした常春藤にからまれて、鈴懸樹の密生をいただいた赤みがかつた嶮岩。水の流れたあとでしまをつけられた黄色い絶壁……」(中村白葉訳、岩波文庫)
 この最初に出てくる馭者のオセット人こそオセチアの地に古来より居住してきた人たちなのでありますね。

 領土問題や民族問題はわたくしたちにはたいへんわかりにくく、悩ましい問題であります。とくに黒海とカスピ海にはさまれた狭隘地であるコーカサスは民族の交差点でありますから、よけい歴史も複雑です。かつてグルジアを一度旅して素晴らしい景観に心奪われたことのあるわたくしとしても、一方的にグルジア側に肩入れすることもできず、かといって解決策など提供できるわけもないのですが、なんとか紛争が拡大しないよう願うものであります。

 大相撲の黒海はグルジアの首都トビリシ、栃ノ心は古都ムツヘタ出身。いっぽう露鵬と白露山の兄弟はロシア出身ですがじつは北のオセット人であります。彼らもみな複雑な心境でしょう。
 と、こんなことをつらつら考えていたところへシルクロードの西の街、ウィグルのクチャでなにやら爆発騒ぎがあったもよう。さらにあちこちに連鎖しないよう祈るばかりです。
by fuefukin | 2008-08-10 08:18 | 私的評論

日常の延長に旅があるなら、旅の延長は日常にある。ゆえに今日という日は常に旅の第一歩である。書籍編集者@福生が贈る国内外の旅と日常、世界の音楽と楽器のあれやこれや。


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