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シャンパングラス・ツリー

 わたくしのこれまでの、短いようで長い、あるいは長いようで短い人生のなかで、漆黒の闇というのは一度だけしか経験したことがない。
 疲れ果てて眠り込んでしまった狭く堅いベッドで、背中のあたりでもぞもぞ動く南京虫に起こされてしまった。目を開けているのに何も見えない。目の前で掌を動かしても指一本見えない。はて、まだ夢の中か。それとも本当に失明してしまったか。
 ここはどこだ!?
 たしかこのバッティ(旅籠)に着いたのはまだ夕刻、明るい時だったな。それから一晩泊まる交渉をして、そのままベッドに倒れ込んでしまった。うたたねしたまま本格的に寝入ってしまったようだ。そんなことを思い出すのに数分を要してしまう。
 眼鏡はどこだ。ヘッドランプはどこだ。いまは何時だ。落ち着けと自分に言い聞かせつつも、思わず動悸が激しくなったのをいまでもよく覚えている。
 静かに音を立てないように外に出てみる。ちょうど新月だったか、月明かりはない。目をこらすと、星の明かりで山の稜線がわずかに分かるほど。小屋に戻ってヘッドランプを消すと、再び漆黒の闇である。身体まで闇に溶け込んでしまう。
 いまから20年近く前のネパールはアンナプルナ山麓、トレッキングルート最奥の小さな村でのことである。
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 さて、ときは過ぎ去り思い出は忘却のかなたへ。
 シャンパングラスを積み上げて水を流し、照明で金、緑、赤と色が変わるクリスマスツリーに人々は歓声をあげる。
by fuefukin | 2005-12-24 10:04 | イメージ写真

日常の延長に旅があるなら、旅の延長は日常にある。ゆえに今日という日は常に旅の第一歩である。書籍編集者@福生が贈る国内外の旅と日常、世界の音楽と楽器のあれやこれや。


by fuefukin
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